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金正日総書記「暗殺」のアイデア:日本に持ちかけていたCIA

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 米朝間のサイバー対決を招いた米国のコメディー映画「ザ・インタビュー」。北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺がテーマで、テレビのニュースキャスターとプロデューサーが米中央情報局(CIA)の指示を受けてインタビューを装い、第1書記に近づいて暗殺するストーリー――と聞いて、奇妙な既視感を覚えた。

 1990年代に、先代の金正日総書記の「毒殺」というアイデアをCIAの幹部が日本の公安警察幹部に持ちかけていた、という話を思い出したからだ。

「金正日の料理人」として知られた藤本健二氏のことを、日本の公安警察幹部がアメリカ側との非公式接触で話した時のことだ。これに対して、CIA幹部と米国家安全保障会議(NSC)の部長から「金正日総書記を毒殺できた可能性があったのではないか」と異口同音に指摘されたというのだ。

 藤本健二氏は、1982年以降日本と北朝鮮の間を再三行き来し、金正日総書記お気に入りの料理人になった。1988年以後は総書記の専属料理人となった。しかし1996年、食材仕入れのため一時帰国した際に逮捕され、公安警察のいわゆる「デブリーフィング」(事情聴取)で北朝鮮での経験を話した。

 いったん、日本国内で調理師の仕事に戻り、刺客らしい男に追われたりもしたが、北朝鮮に残した現地妻と子供が忘れがたく、2年後、北朝鮮に戻ることを決めた。その際彼は、公安警察から情報協力を依頼された。

 北朝鮮では、再び総書記のために料理を作った。1度、食材調達に北京に出たとき、日本の公安警察と連絡を取ったところ、盗聴されていて、自宅軟禁処分されたこともあったが、結局は2001年に無事日本に引き揚げた。金正日総書記は彼の料理を本当にひいきにしていたようだ。

 公安警察幹部がそんな経緯をアメリカ側のカウンターパート(協力相手)に伝えると、藤本氏に頼んで金正日総書記に出す料理に「フグの毒を盛ることもできたのではないか」と言われたのだという。

 米側は、日本側がそんな工作を実行するのを期待しているのかもしれない。しかし当然のことながら、そもそも日本の公務員は毒殺であろうと爆殺であろうと、違法な工作は禁止されており、全く検討の対象にもならない話だ。実は、CIAだってレーガン大統領の行政命令で「政治的暗殺」を禁止されている。

 筆者はその後、あるテレビ局のプロデューサーから「日本は拉致問題などでやられっぱなしです。映画の『ランボー』のように攻撃するとか、そんなアイデアで番組ができないかと思うのですが」と相談を受けた。「料理人による毒殺という話はありましたが」と答えたが、いまだに具体化したとの話は聞かない。

 「ザ・インタビュー」の制作に当たっても、元CIA工作員など専門家から話を聞いて、ストーリーを練り上げたに違いない。

 ソニーの米国子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)社内で議論があったことが、北朝鮮発とみられる強烈なサイバー攻撃でネット上に流出した大量の内部情報から明るみに出た。

 ブルームバーグ通信の報道によると、その中に「金正恩氏」暗殺場面をめぐってソニー本社の平井一夫社長とエイミー・パスカルSPE共同会長間で交わされたeメールがあった。

 それによると、当初は「金正恩氏」の顔が爆発するシーンがあった。しかし、9月28日にパスカル共同会長が平井社長に送ったeメールだと「337版では髪の毛や顔の火はほとんどなくし、爆発はぼかした」などと連絡。平井社長は9月29日のeメールで「熟考した結果、337バージョンでいくことにしたいが、国際公開版にはしない」と回答している。

 平井社長から修正指示を受けたことについて、パスカル共同会長は映画監督のセス・ローゲン氏への9月25日付eメールで「困った話だ……この会社での25年間で親会社から指示されたのは初めて」と不満を示していたという。

 SPEは興行の成功を確信して、どぎついシーンも残したかったのかもしれない。しかし、隣国北朝鮮と微妙な問題を抱える日本の本社の立場は違うはずだ。

 この事件、米国内では「表現の自由」の問題として受け止められている。もちろん、映画公開に対してサイバー攻撃をかけるのは間違っている。だが、日本側の感覚は米国民とは少し違うだろう。ソニーが1989年コロンビア映画を48億ドルで買収し、SPE傘下に収めた際、創業者・盛田昭夫氏は「天皇批判の映画が制作されたら、どうするか」との質問に対して、「日本人はそんな映画を見たくないだろう」と答えた。これに対して多くの米国人記者は、日本で天皇批判の映画を公開するなら、修正せざるを得なくなるだろうと受け止めた。今回も日米間でそんなパーセプションギャップが表面化したと言える。

 いずれにせよ、北朝鮮はこれで、核、ミサイルに続いて、サイバー攻撃という新たな攻撃能力を示した。事態は深刻な方向に動き出した。

(春名幹男)


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